研究・開発

光合成vs光電効果(作物成長vs太陽光発電)

営農型太陽光発電・・・なぜわざわざ農地の上に太陽光発電なのか、多くの農業関係者に指摘されてきた。賛成派も多くおられるものの、「作物成長への懸念」と「作物の頭上の無機的な違和感」と言われるケースが多かった。後者のケースは、連立方程式に慣れた技術者が突然、鶴亀算の世界に引き込まれるような、ある種のアレルギーのようなものかもしれない。

-中学の時、連立方程式で数学の面白さに本格的に芽生えた。解析的であり、文化的なにおいによるごまかしがきかないからである。筆者は長らく鶴亀算を習う意味に懐疑的であった。植木算ならわかるが、同時にそこにいるのを見たことがない鶴と亀を数える意味があるのか、と。しかしながら、どう連立方程式を使うかにおいて、小学校で鶴亀算をやっていてよかったのだろうと思う。解を求めるに文化的なにおいを排除することは社会への応用力の劣化を生むのだろう。このことに気が付いたのは社会人になってからである。-

なぜ農地の上・・」に関しては、様々な背景があり筆者も分析をしてきている。ここでこの話を進めると大脱線となるので、別のページで説明する。

営農型太陽光発電のメリット・デメリットの考察における肝である作物の成長に関して、多くの方々が「様々な作物での圃場での実証実験の蓄積」を呼び掛けている。非常に重要なアプローチであるが、ここでは、「栽培のための光vs太陽光発電」において両者の関係を考えてみたいと思っている。

「光合成には飽和点がありそれ以上の光は不要、だから光をある程度遮ってもいい」のようなインターネット記事が多いが、筆者にはどうも腑に落ちない。「光飽和点」に着眼していることは間違いではないと思うし、うまくいっている営農型太陽光発電は数多くある。しかしながら、作物は陰性から半陰性に限定されており、太陽電池モジュール積載率は20%程度かつ設置高さも高いなど架台の工夫が必要とされている。このままでは作物の種類を増やしたり積載率を上げることができるとは思えない。

「それ以上の光は不要」は、「日射・日影が交互に訪れる環境下であってもトータルの日射量があればいい」と言えるだろうか。あくまで連続日射環境下で「これ以上は不要」と考えるべきではないのか。このことを考察していく。

-厳密には、光飽和曲線はC3植物C4植物でもかわってくるようだ。専門的すぎるし付け焼刃的な紹介は誤解を増殖するのでこのページではふれない。数理モデル含め分析してわかったことから順番に紹介していこうと思う-

論理的説明のために、まずは光合成と太陽光発電における光電効果について比較しながらみていく。

 

まずは光合成・・・・

この図は小学校から中学校時代に習った光合成のしくみである。

(なつかしい)

 

 

 

 

 

第1図 光合成1 出典:https://eco-word.jp/html/02_sinrin/si-01.html

 

根から水分を吸い上げ葉に送る、気孔経由で二酸化炭素を取り込み太陽光を使って光合成を行う。そして、炭水化物など養分を生成し植物は成長していく。

また、作物として食べるだけではなく、二酸化炭素を取り込んで酸素を生成するので人間が生きていくために重要な役割を担っている

(ありがたいことです)

この光合成はとても複雑なプロセスであり、詳細説明は専門家にお願いすべきであるが、光電効果と比較をしていく以上、若干、説明責任を果たしておこう。

-正直、光合成を解説することは、言葉が通じない外国で身振り手振りで聞き、あてにならない右脳のみで前に進むというか、へたすれば間違った場所に行くのではないかという不安がある。昔イギリスで、どのバスに乗るべきか人に聞いたとき、A10がアイテーンに聞こえ、いつまでもI10を待っていた経験がある。確か、Aはアイと発音する国がある-

 

左の図は、光合成の概観図で第1図より難しい言葉と記号が出てくる。

 

 

 

 

 

 

第2図 光合成2 出典:http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_59

 

この図は、第2図の光合成のうち「明反応」を説明する図である。

 

 

 

 

第3図 光合成における明反応 出典:同上

 

明反応:光エネルギーを吸収しておこる化学反応

①光エネルギーで水を分解し酸素と水素イオンを生成

 電子が放出され、電子伝達物質というタンパク質に受け渡されNADPHに蓄積

②チラコイド膜を隔てた水素イオンの濃度差でATPを合成

NADPH:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸

これも電子伝達体で酸化力(=電子を奪う力)が強く暗反応で活躍する。

ATP:アデノシン三リン酸

植物体のエネルギーの源になる物質で暗反応で活躍する。

-アデノシン三リン酸は、高校の生物の授業で、AMラジオの「子供電話相談室」に出演されていた岡村はた先生(故人)から教えていただいた。周辺キメラとともに高校時代の生物で覚えている言葉であるー

暗反応:NADPHとATPを使って、二酸化炭素から糖質を生成する。

 

注)第1図では炭水化物とあるが、この炭水化物から食物繊維を差し引いたものが糖質

 

複雑なプロセスであることは、これだけでもわかるが、光がどう作用するのか、もう一歩だけ考えてみたい。

植物の光合成における光化学反応である明反応を縦軸に酸化還元電位をおき、説明してきた酸素生成とNADPH生成されたものが左図である。

90度右に倒すとZの字になることから「Zスキーム」と呼ばれている。

酸化還元電位は上の方がマイナスになっているが、上に行けば行くほど電子を保持しやすい

 

 

 

第4図 Zスキーム 出典:「生命系のための理工学基礎」https://rikei-jouhou.com/

 

PS-IIとPS-Iは光化学反応系IIと光化学反応系Iである。

PS-II:光で励起された電子は、両者の間にある物質を伝わって、「周辺の物質」を還元しながらPS-Iに至る。

(ここで「周辺の物質」とぼかしているところも非専門家の筆者の限界である。よく説明できないことを知ったかぶりすることは危険なので進歩すれば書くこととしよう)

PS-IIでの電子は、第4図にあるように水を酸化つまり電子を奪って(酸素も生成して)補われる。

PS-Iで生成された電子は、第4図にあるプロセスを経て、NADPHに蓄積される

(ほんとうに複雑なプロセス、、、、分子生物学は神秘に満ちている。分子生物学者もしくは植物生理工学を専門とされる方の講演を聞いても、なかなか自分の脳に染みわたらないが、脳に光を当てれれば理解が加速するかもしれない)

以上、光合成における光の作用について概略を説明した。

 

対して、光電効果は筆者は若干の知見があるので、詳しく説明したいところであるが、ここでの主題がぼけるので、簡単にいえと・・・光が半導体の分子構造内にある電子にあたると、電子は喜び勇み自由に動き回ることができ電気が流れる、ということである。

(晴れれば外へ出たくなるのと同じ)

 

詳しくは、立命館大学の峯元先生のYoutubeチャネルで説明されているので、ぜひ参照されたい。

 

次の図は、光電効果と光合成の様子を並べて示した図である。

 

 

 

 

 

 

第4図 光電効果と光合成の対比図

光電効果を示す上図左は、バンド理論で示したものである。光電効果も光合成も「光があたり電子が動き回り・・・」のイメージは同じである。光合成の複雑なプロセスは上述したとおりであるが、光電効果も不純物トラップの影響や電子・正孔の再結合プロセスもあるなど理論的な複雑さは同様である。

しかしながら、光合成の方は、電子伝達系でのバケツリレーに加え、電子伝達物質といういわば生命体が関与していることが、大きく異なる点である。また、気孔を通して二酸化炭素を取り込むあるいは酸素を吐き出すため、この気孔の動きも光合成のパフォーマンスに関わる。かかる生命体が機嫌よく活躍してもらうために、温度を適切に保つための気孔開閉もあるようだ。さらには気孔を構成する孔辺細胞は光の強弱と密接に関係しているそうである。これらのような生命体のようなふるまいは光電効果にはなく、相互連携的な動きもないと言っていいだろう。

外からみえるシステムとして考えた場合、下表の比較がここで明記しておきたいことである。

 

 

 

 

 

表1 発電(光電効果)と作物(光合成)のシステム比較

発電(光電効果)の方は、入力は基本は光のみであり出力は電力であるが、作物(光合成)の入力は、光・水・空気3つもあり、出力は、乾物重と酸素である。作物の品質も出力の1要素と考え記述している。またシステム技術論でよく論じられる遅れ要素も比較の意味で重要と思われる。

光電効果ももちろん温度などの環境条件でふるまいは変わってくるが、直接の入力ではない。半導体でつくる熱電変換素子は温度差が入力ではある(ゼーベック効果)。光合成の方は、入力が3つもあり、内部要素に相互連携性もあり、また遅れ要素もあることから、作物内の要素を生命体として考えた分析が必要と思われる。つまり、発電と作物の光のシェアリング考える上で、光飽和点を超えた光を太陽光発電にまわせばいい、と単純に考えてはいけない可能性がある。

-ちなみに光合成効率を高めるために孔辺細胞へ影響のある物質(ホルモン?)をみつけ、バイオマス生産力を高める研究もあり、カーボンニューラルな発電への応用なども大学などで検討されている-

両者は、光という共通の入力があっても、出力へのプロセスが異なるのである。

 

いま一歩解析的なアプローチをしていくために、ここでこの図を示しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5図 光電効果と光合成の特性

上側は光電効果の特性、横軸は光照射量や波長など、縦軸は出力電流などのレスポンスを示す。システムの分析ための1例である。下側は光合成の特性、横軸は光照射量や光波長など、縦軸は光合成スピードなどレスポンスである。

左から3番目まではいわゆる静特性、一番右側には横軸を時間とし入力の光をステップワイズに照射した場合の応答性、つまり動特性である。過渡応答ともいう。

システム工学では伝達関数が使われ、そこから周波数特性や過渡応答特性の求め方を習った方も多いだろう。

光合成の特性で1番左は光飽和点を示した図でインターネット上でよく出てくる。この非線形性ゆえに「これ以上光をあてなくてもいい」との論調が多い。確かに光は不要になる(C3植物、C4植物で違うようである)、もしくは葉焼け防止にも有益、は否定されるべきではない。ただし、営農型太陽光発電下の圃場には、シェアリングにより日射時間と日影時間は交互に訪れるため、問題提起はその時間応答である。第5図右下の???のところは、作物によっても光条件によっても違うだろうと想像できるので断定的な言い方は禁物であるが、時間遅れがある可能性が大なのである。


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